『お菓子作りの楽しさ』を今日も極め続けるお店。【ケーキファクトリーホイップ】

稲城駅から開発地区・南山の坂道を登ると、絵本に出てくるような赤い建物が見えてきます。お店の扉を開けると、美味しそうな焼き菓子や、キラキラ輝くたくさんのケーキに心がウキウキする、洋菓子の名店「Cake Factory Whip」さんです。

友iな人々第1回目はオーナーの多田さんにお話を伺いました。

− ケーキ屋さんを始めたきっかけは何ですか?

「実はレストランやりたくて。実家が東村山のとんかつ屋さんで、無意識に自分はそういう商売やるんだって刷り込んでたのかな、、、中学のときも俺は商人になるんだから、足し算引き算掛け算割り算ができればいいって思ってた。」
中学卒業後すぐに就職したかったが、親の強い勧めで専門学校に進学した。
「本当にイヤで行きたくないっていったの。そんな金あるならくれって言ったら、ぶん殴られた(笑)」

その後、思い描いたようにレストランへの就職を決めたが、いざ修行を始めると、そのお店の仕事は1年くらいで覚えてしまったそう。1年ごとにお店を変えて修行し、経験を積んだ。
「全部覚えちゃうともうやることがないから、他のお店に行きたくなっちゃう。でも入りたての子が「じゃあ料理つくってお店に出せよ」とはならないじゃん。だから面白く無いのよ。」
そんな多田さんでも、作れないものがあった。それはお菓子だ。
「その頃って『甘きゃデザート』って感じだった。フランスでもそう。果物は酸っぱくて当たり前で砂糖をかけるってサービスがあったくらい。」
30年も前の話だが、ちゃんとしたレストランでもデザートは良くてアイスクリームが出るくらい。レストランではお菓子は学べなかった。
「とにかくデザートのグレードの低さが許せなかった。『終わりよければ全てよし』って言葉があるじゃない?レストランを一旦やめてお菓子の修行をしたいって思ったのが、菓子屋に転身したきっかけ。」

最後まで美味しいものを提供したい一心で、ゼロからお菓子の修行を始めた。
「スポンジとかを焼くのって、俺にしてみれば『肉』を作ってるイメージなの。肉が美味しく無いとレストランはダメだなって。業者から選ぶのと自分で作るのは違うから、自由に作れるのはすごく楽しくて、やめられなくなっちゃった。」
お菓子作りの面白さに魅了された多田さんは、2004年からお店を構えた。今年で創業18年になる店内には、「稲城産」の文字がつく商品が数多く並んでいる。

モノを作るからこそわかる、ムダにはしたくない思い。

− 商品に地場産を使い始めたのは、素材へのこだわりからでしょうか。

「市の職員さんから、梨のPRにお菓子を作れないかと相談されたんだよね。でも梨って洋菓子に向いてないんだよ。」
実際、当時梨を使ったお菓子は全然なかったそう。
「和梨って、香りが薄い、味が薄い、水分が多い。この3つの特徴が全て洋菓子に向いてないの。ラ・フランスと違って、加熱すると香りが消え、食感も味もわからなくなってしまう。梨は無理だよって思った。」
しかし、説明された梨の現状が、多田さんを奮い立たせた。
「『稲城』って品種は組成が弱くて、形が不揃いになっちゃう。多い時は生産の30%くらい。ソレ聞いた時にうわ〜って思ったの。」
農家さんも30%を減らす努力はしているし、いい梨を買った時にプレゼントしたり、不揃いな梨として売ったりしているが、捌ききれなかったらしい。
「自分が一生懸命作ったものがダメになるっていうのが、ものすごく、涙がでるほどイヤだから。毎回30%ダメになるものを作っていると思ったら俺は耐えられないなって。そっからだね、真剣に考え始めたのは。」

立ちはだかる壁。救ったのは、まさかの…

− 今ある梨を使ったお菓子は、どのように開発したんですか?

「日本中見に行ったのよ。鳥取では梨のコンポートをバームクーヘンにしてた。いいなって思ったけど使うのは『形が不揃いな梨』だから。角切りにしてゼリー作ってみたけど梨の時期はバッティングしちゃって売れない。梨って寒くなると途端に売れなくなるけどゼリーも同じだった」
梨をPRして売れるようにする、というミッションが根本から達成できていないと気づいた。方向性を変えて焼き菓子を試作したが、またしても和梨の水分が課題となる。

構想から5年の月日が流れたころ、新潟へ視察に行く途中で食べた駅弁の『切り干し大根』が多田さんにひらめきを与えた。
「たくあんにしたり、切り干し大根にしたり、大根ってあんなに表情変わるかっていうくらい変わるのね。なんか『あっ!』て思ったの。大根と梨ってちょっと似てない?似てないか。(笑)とにかく梨を干したくてしょうがないの。」
帰ってすぐ梨を干して水で戻すと歯ごたえが残っていた。自家製の梨ジュースで戻して、今や人気商品の『梨ケーキ』ができた。
「ただ梨を使ってるお菓子じゃなくて、食べてすぐ『梨だ』ってわかるものが作りたかったんだ。」

試行錯誤の末に辿り着いた「梨」を主役にする技術。それから梨のお菓子のラインナップが増えていった。

− ちなみに色々試作してると太ることって無いんですか?(笑)

「太る!(笑)痩せなきゃと思って落としたんだけど『俺、頑張れば落とせる!』って思ったら、また落ちないね(笑)」

子供も買える思い出のお菓子、シュークリーム

− 梨の他にもぜひ食べてほしい!って商品ってありますか?

「シュークリームかな。人間って子供の頃美味しく食べてたのってすごく記憶に残ってて。食べるとあの時を思い出すっていうのが俺はシュークリームなんだ。」
シュークリームが美味しいことを早く知って欲しくて、開店当初は近所のお宅一軒一軒に配って回ったそう。
「シュークリームさえ美味しければあのお店ハズレないよね、って思ってくれるかなって。」柔らかいイメージのシュー皮だが、「焼きたて」を感じられるよう、サックサクの食感にしている。湿気を吸わないようクリームも詰めたてを提供。当たり前のこととして素材にもこだわっている。
「シュークリームって高嶺の花じゃない。もらって嬉しい、子供でも手が届く商品にしたくて。本当は200円じゃ採算合わないんだけど、値上げしてないね。」

『稲城のお土産屋さん』として頼られるお店を目指して

− いつも心がけていることってありますか

「どうやったら喜んでもらえるかな、というのは常に心がけてますね。人が喜ぶっていろんなスイッチがあるなって思う。大事にするっていう前提の中で行われてるものじゃないと、本当の『喜んでもらう』につながらない。」

社内では気付けないことがあるからと、接客を確認するためミステリーショップリサーチ(覆面調査)を去年1年間行ったという。最初から高得点で最後の方はほぼ満点。美味しいケーキで喜ばせるために接客にも意識を行き届かせている。

―今後どんなお店を目指していきたいですか

「お菓子を作っててたのしい、っていうだけなので、続けられることが幸せなんです。あとは、稲城のお土産屋さんになれたらいいなって思う。『ここぞというときにはホイップに行けばなんとかなる』と思ってもらえるような、お店になりたいね。」

「好きなお菓子づくりを続けていく」こと。ホイップさんの商品に、接客に、全てにその思いが込められている。